公認会計士・税理士　萩谷孝男事務所

 青色申告を行う個人事業主にとって、キャッシュフロー管理と経営分析は欠かせない要素です。しかし、法人とは異なり、生活費等や資金移動の影響が直結するため、より個別の事情に応じたアプローチが求められます。

○青色申告個人事業者特有のキャッシュフロー分析指標

私が考える青色申告個人事業主を支援する際に重要となる指標には、次の3つがあります。

1．経営安全率（個人専用）
　この指標は、事業主が生活費やリスクをカバーできるかを示すもので、
(特別控除前所得 - 生活費) ÷ 粗利
という式で計算されます。生活費を役員報酬のように扱いマイナスすることで、より実態に即した健全性を把握することが可能です。

2．自由資金比率（個人専用）
　フリーキャッシュフローから生活費を差し引いて計算します。
(フリーキャッシュフロー - 生活費) ÷ 特別控除前所得
この指標は、生活費が大きい場合どれだけ事業のキャッシュフローを圧迫しているかを明確にし、事業主の可処分資金の状況を示します。

3．自己資本比率（個人専用）
（所得＋元入金＋事業主借－事業主貸）÷（資産合計－事業主貸）

　青色申告個人事業者の場合、事業主貸や事業主借の影響で自己資本が変動しやすい点に留意が必要です。ただし、経営安全率と自由資金比率が改善されると、その結果として自己資本比率も良好になります。これら3指標は互いに関連しており、包括的に分析することで事業の健全性が見えてきます。

○生活費の影響をどう捉えるか？

　個人事業主の経営分析では、生活費が大きなポイントです。これを役員報酬のように扱い、経営安全率や自由資金比率に反映することで、事業主が手元に残せる資金や余裕の度合いが一層明確になります。この分析手法は、税理士や公認会計士として顧問先に提案する際に、非常に説得力を持ちます。

○「見える化」で複雑さを解消

　これらの指標を用いた分析は、手作業では時間がかかり、ミスのリスクも伴います。そこで活用したいのがエクセル版個人用「キャッシュフロー見える化シート」です。このツールは、生活費や事業主貸・事業主借といった個人事業主特有の取引を自動で反映し、経営安全率や自由資金比率を簡単に計算します。また、来期の計画もシミュレーションできるため、顧問先とのコミュニケーションがスムーズになります。

※青色個人事業主の計算書分析において、経営安全率や自由資金比率に生活費を考慮することは私の個人的な分析手法です。従いまして、他の方法を否定しているわけではありません。